マンガで読む小説の書き方

ゲームセンターあらし』でお馴染みのすがやみつる先生が「小説入門」本を刊行した。これまでありそうでなかった「マンガでわかる小説入門」。作画は横山えいじ

マンガでわかる小説入門

マンガでわかる小説入門

石森章太郎小林まこと鳥山明をはじめとして、マンガで描かれたマンガ家入門は数多く出版されていた。同じく坪内逍遥の場合はニュアンスが違うにしても、古くは田山花袋や最近では保坂和志などが活字で小説入門を執筆してきた。
マンガで描かれた小説入門、となると商業ベースでは初めてなのかもしれない。作文書ならあるんだけど*1


内容は、一人の作家志望の若者が小説を書き上げていくプロセスや、作家となってからの心構えを説いた、いわゆる「実践型」の小説入門。プロットの構成や視点の設定、描写技術の鍛錬といった実作を想定したつくりになっている。
特徴的なのは、例示としてマンガを利用できることだろう。描写の説明の回で、主人公が書いた文章の視点揺れまくりの様をマンガ化して指摘する、というような見せ方だ。
巻末には各文学賞の要項が羅列され、ブックガイドとして創作作法についての本たちも紹介されている。こういうブックガイドは小説中心のものになりがちだけど、映画シナリオ技法やコント創作などの分野の本も集めてきているのは注目。
「小説の技法」への視点でみると物足りなさは感じるけれども、「小説入門」としてはなかなか手軽で素敵なものだ。マンガという見せ方がさらに研ぎ澄まされれば素晴らしい「小説入門」書ができてくるという予感を持たせてくれる。


ほかにも今月は小説作法の発刊ラッシュラッシュ。
高橋三千綱も「文章術」を発売してきた。『今日から目覚める文章術 (ロング新書)』 ロング新書
こちらは、作家の小説作法書にありがちな「心得型」にどっぷりと浸かっているわけではなく、実例を多数挙げて小説技法についての説明や、自らの作品を取り上げて自己分析(解説)を加えている、「実践型」に近い構成。
また、小説だけではなく広く「文章」へと射程を持たせており、手紙の重要性なども説く。その一方で、「売文業としての作家の心得」や「短編小説の書き方」なども詰められていて、射程の広さでかえって統一感が薄くなってりゃせんじゃろか。


清水義範も作文教室。前作は「大人のための」作文教室、最新作は『わが子に教える作文教室 (講談社現代新書)』ときた。
わが子の作文能力をいかに伸ばしてやろうかという想いに駆られている親御さんたちに、じゃあ子供と一緒に作文上手になっちゃいましょう、という非常に一石二鳥な趣向の本。
中に読書感想文はイイ子ぶっちゃうからダメだ、というような論調がある。むしろいかにイイ子ぶるかに筆を研ぎ澄ませたり、先生の評価を裏切るためにイイ子からいかに脱線させるかに研鑽を積むような、そういうユニークさは認めてくれないのね、清水さん。
ブログの女王」にあらせられる「眞鍋かをりの作文も講評」するというキャッチーぶり。


珍しい切り口なのは廣川州伸『週末作家入門 まず「仕事」を書いてみよう (講談社現代新書)』。
「小説」ではく、「自伝」「日記」という文章の書き方本も多数見られる。自分の経験を文章に。そういう意識には需要があるみたいだ。
じゃあ「経験」を「小説」にしてみてはどうだろう。つまり、「仕事」を「小説」として書いてみたらどうだろう、という提案がなされているのがこの本だ。
ビジネス文の書き方なども網羅していて、ターゲットを「働く人」にあてアドバンテージを活かす視点は珍しい。でもこれで、いま流行りの「ブログ」とやらに自分の仕事内容を曝露してしまうオトーサンは出ちゃわないかしら。


さすがに個性の薄い文章作法本は発売されなくなってきた。どこかしらセールスポイントを強く打ち出す様子はコレクションしていても楽しいね。


そういえば以前つくって更新を放棄したままのブクログさん。
http://booklog.jp/tana.php?ac=siken