山田史生『受験生のための一夜漬け漢文教室』

雑談が好きな私は、対談とか鼎談とか座談会が大好きだ。『無限論の教室』や『理性の限界』といった対話形式で進められる文集も愛読する。
山田史生の『受験生のための一夜漬け漢文教室』はちくまプリマー文庫から発刊、漢文が苦手な女子高生の娘と国語教師である父親の対談形式で漢文解説が進められる。


この新書は、突っ込みつつ読むべき教養書だ。


「漢文って苦手」と自称する娘さんが同音異義語に触れる際に、
「学生が「こないだコウエンに列した」というときには、たぶん講筵よね」(P25)
と『講筵』って漢字を即座に表現したり、漢音と呉音の存在について認知していたり、
「英語の「Pity is akin to love」を「憐憫は愛情に近し」と訳すんじゃなくて、漱石が「可哀相だた惚れたつて事よ」(『三四郎』)(P47)
と邦訳に苦言を呈したりと、才能がぷんぷん臭う才覚ぶりであった。


受験漢文の一夜漬け書としては、道筋や理屈にこだわりすぎている調子があるけれども、漢文を納得できる良書には違いない。
メソッドがなかなか出てこない事に受験生はイラつくとは思うが、最低限の漢文基礎を授業で学んでいるけど成績が伸びないのという層にはうってつけ。
それよりも、漢文に縁のなかった層が暇つぶし教養として手を伸ばしてくれたなら極めて幸せな一冊。


漢文コンプレックスを抱えている人にお勧めの一冊。

受験生のための一夜漬け漢文教室 (ちくまプリマー新書)

受験生のための一夜漬け漢文教室 (ちくまプリマー新書)