『まれに見るバカ』 瀬古浩爾

2002年1月23日初版発行 洋泉社 新書
世の中に溢れ返る「バカ」を取り扱う。「バカ」の資質や、「バカ」文化人、一般に巣くう「バカ」な言動をこれでもかとばかり取り上げる。また書物の「あとがき」にも目を付ける。「あとがき」の最後に一言添えることがほとんど慣例化している。その日付のほかに、執筆場所名、執筆時の気持ち、つまり蛇足を書き綴る著者たちに、「バカ」の称号を謹んで与えているのだ。最後の章では、これほど人様を「バカ」と罵りつづけたことに悪い気がしたのか、こういう「バカ」なら許せる、という内容を展開する。
普段に私達がふと使ってしまう言葉や、とってしまう行動を指して「バカ」だと言われると、どきりとする。それにもっともらしい分析のようなものも付されていると尚更である。 確かに納得のいく「バカ」への指摘は随所に見られる。「バカ」な人はこれを読んでも「バカ」のままで、まさか自分のことを指されているとは思わないだろう、といった調子がうかがえるが、それもその通りである気さえさせられるために、気を抜くと著者の勢いに飲まれてしまう。
「本書を通読されたあと、もしかしたらあなたに、なぜかはわからないが、生きる勇気みたいなものが湧いてくるかもしれない。(中略)それはバカの熱気によるものである」とまえがきで書かれている。ここからは「バカ」に比べればまだ自分はマシ、という意識が芽生える、それこそ「バカ」を表現しており、小気味がいい。強い著者の信念によって形作られたこの書物からは一途な頑固さが伝わってくる。「バカ」を論じる際に「自分はバカではない」という宣言をせざるを得なかった著者。彼の秘める「バカ」がそこから噴き出しそうでほほえましい。
なんだ、みんな、一緒なんだ。そんな風に誤解してしまう「バカ」を育ててしまいそうな一冊である。