矢口真里 『ヤグチ』 撮影・橋本雅司・大森直・中野愛子 発行・ワニブックス

私はアイドルに可愛さを求める。確かに色気や気品は大切な要素を占める。しかし、やはり最低限なものとして、可愛さというものが必要であるという信念を持ちアイドルを見ている。だからとはいえ、その他の要素を否定するわけではない。あくまで可愛さが最も重要だということを主張したい。
という私の妄想は実際にアイドルの前だと単なる能書きに堕ちる。さて、この写真集は非常にシンプルかつインパクトのある表紙デザインを持つ。書店で平積みになっていると、まず一面に使われた赤が目に飛び込んでくる。これは内山理名『20歳のキモチ』も同様の特徴をもつ。しかし、『ヤグチ』が放つインパクトをさらに説明するのならば、おどけた矢口のポーズとともに、タイトルの効果が大きいのではないだろうか。表紙には「ヤグチ」の3文字のみが用いられ、その他に文字は無い。非常にシンプルなデザイン。
一切、水着の写真は無い。現時点でのモーニング娘。ソロ写真集においては、安倍なつみ『ナッチ』、後藤真希後藤真希写真集』、市井紗耶香『SELF』の3冊に水着写真が載っている。これらは今のモー娘。の傾向を考えると特殊な例に当たろう。『ナッチ』についてはソロプロジェクト前の写真集で、安倍なつみの最新写真集『なつみ』では水着写真は無い。市井の『SELF』はモー娘。脱退後の写真集である。純粋な意味での「水着アリ」は『後藤真希写真集』のみである。その傾向に漏れず、『ヤグチ』にも水着は無い。
ただ、『ヤグチ』ではこれが必ずしもマイナスには働いてはいない。確かに、写真集を買うものにとって、水着はあった方がいいものである。また、水着アリとなれば売上げも上がることが予想できるだろう。しかし、無理をしたお色気は読者になんとなくの不快感をもよおさせてしまう恐れがある。それがいい、という人もいるだろう。だがこの写真集では水着を用いずとも、矢口真里の魅力は十二分に伝えることができているのだ。
矢口は低身長、また明るいキャラを信条としている。加入当初は地味なキャラであった。今となってはその陰も無く、ギャル化しモー娘。のムードメーカーとして位置を固めた。そこに見られるのは大人へのコンプレックスではないだろうか。矢口も気付けばもう20歳寸前である。大人が全て身長が高いというわけではない。単純に低身長=子ども、高身長=大人という意識はなんとなく理解できるものだ。また、大人=色気、大人=落ち着き、などと、普段ブラウン管を通しての矢口を参照すると、どうも大人とは正反対の位置付けであるように見える。
そこにチラリと出してしまう「セクシーさ」。このギャップにファンはやられてしまうのかも知れない。この写真集では、その面が張り出されているといった印象を受けた。表紙こそおどけた表情である。だが巻頭の写真は非常に色気をかもし出した表情を見せてくれているし、それに続く物憂げな矢口は充分に大人を表象している。それだけではなく、いつもの無邪気に飛び回り跳ね回る矢口の写真も充実している。だからこそ、合間に除かせる大人の矢口の効果は倍増するのである。ふと、ファンに矢口の現在を投げかける構成にはただ頭が下がるばかりだ。
それにしても、「CAUTION」テープでぐるぐる巻きになっている矢口の顔が、山田まりやに見えてしまってならない。解散した後は、同じような道を歩むのだろうか。そういえばキャラも似てるし…。