座談会 昭和文学史

現在、集英社より『座談会 昭和文学史』をいう本(全六巻)が刊行されている。編者は井上ひさし小森陽一、これが3500円前後の価格で毎月出るもんだから当然私の食費が圧迫されている。「本にお金を惜しむな」と4年前に言われて以来確かに出し惜しみせず自らの首をしめる結果を驀進しているが、もちろん自爆する価値はある本だと思う。岩波現代文庫から出ている『座談会 明治大正文学史』と同じシリーズだと思われ、そうそうたる面子により語られた文学史…というよりも史的な印象はあまりなくそのトピックトピックへの言及があらたな議論を呼んでいく。国文学の専門家に言わせりゃちと古いのかもしれないが、こちら昭和文学史バージョンは今まさに刊行されているリアルタイムで語られる(とはいえ1997年の収録)。確かに重鎮と言える面子、まず編著ふたりが小説戯曲を貫く井上ひさし、文学理論から夏目漱石まで国文学科教授じゃないのがもったいくらいの小森陽一志賀直哉最後の弟子と言われる阿川弘之、評論家研究家として加藤周一中村真一郎小田切秀雄、島村輝、川端香男里保昌正夫とこの中では1957年生れの島村輝だけやや若いがあとはまさに重鎮の趣きたっぷりの方々。これが第1巻の面子で、後巻にはつかこうへい、安岡章太郎佐高信奥泉光、そして主に戦後を語る第6巻には大江健三郎大岡信谷川俊太郎小田実古井由吉高橋源一郎島田雅彦と、まぁ残念ながらSFやジュニア小説の方は「純文学」じゃありませーんと化石のこだわりをみせているのか入っておりませんが、主だった参加者だけでもこの有様である。こりゃ食事も削るっての。
と作者名だけ、つまり権威だけでの予感なので実際買ってみればブックオフ突入の憂き目を遭うのかも知れないが、明治大正バージョンから考えるとそうそう外れるわけでもあるまい。そもそも私の興味は正しい真実をえることだけではなく、他人がどのような視点で持ってものごとを見ているかということにあるので、内容が稚拙であろうが秀逸なものであろうがそういった価値からはずれているので関係なーい、みたいな。ただこの本を他の人に評価を求められた時にそんな言い方はこいつ舐めてるなと思われる憂き目にこっちが遭ってしまうので、別の言い方。座談会という方式をどう捉えるのだろうか。個人論文とは違い、発話者を明確に区別して記述されているのでその一人一人の持っている視点を判断しなければならない。またもちろん二人で使っている同一のはずの言葉が彼それで意味がずれていることも否定できず、スリリングな解釈、読みが読者には要求される。やや口語体に近いという特徴から読みやすさというものは確実に上昇しているものの、逆にその特長によって見逃すものも多いと言うことを強調してしすぎることはない。まさに座談会の妙味はここにある。この本には注釈や写真がふんだんに使われているので資料的価値もいただけるので嬉しい。とりあえずは3500円という価格が脅威だが、そうそう文庫化もしねぇだろうし、国文学に目が行く人ならば購入していっても損は無い。