「文章読本の歴史」のふたり

今日、文章読本といえば斉藤美奈子文章読本さん江』(筑摩書房ISBN:448081437X)だろう。輝かしい(かどうかは知らんけど)小林秀雄賞第一号だ。なんと小林秀雄賞第2回は吉本隆明夏目漱石を読む』(筑摩書房ISBN:4480823492)、それは置いといて、新潮社の公式サイト河合隼雄の写真がエモーショナル。それも置いといて。
文章読本』についていろいろとしばいた論はこれが始めて云々みたいなことを誉めそやす書評をけっこうみかけた。2002年5月号の文芸誌に当書の書評はいろいろと載っている。なにが面白いかといえば「文学界」が「文章読本」を書いている中条省平*1に書評を書かせているところだ。ご本人も、

 かくいう私も『文章読本 文豪に学ぶテクニック講座』などという類書を書いて、「『困った中年』の仲間入りをした」と断定されたくちだが、「文學界」編集部から傷は浅いと判断されたか、あるいはせいぜい反省しなさいという親切心からかは知らないが、『文章読本さん江』の書評を依頼された。

と「文學界」2002年5月号の書評欄に書いている。
あ、いやすいません、それは個人的に面白いところで、肯定的な点に多いのが「よくぞ『文章読本』に目をつけた」という言及だ。
もちろん斉藤美奈子は「文章読本」に潜んだイデオロギーや「文章」作成というものに対する意識の時代的変化を調査して書いており、単に目をつけたもん勝ちというレベルにはいない。
とはいえ「文章読本」に関してその歴史的調査を繰り広げたのは斉藤美奈子がはじめではない。まー、作家論作品論が隆盛していた状況で「文章読本」に触れられないことがおかしいというかなんというか。
読者視点というポジションをとっている点で斉藤美奈子はダントツで独特なのだけど、レトリック面では主に日本語学・国語学分野で、各作家別作品論としては日本文学分野で論文はいくつか出されている。
そのなかでも「文章読本の歴史」というものを扱ったのが武藤康史文章読本の歴史」(『新潮』1995年1月号)で、斉藤美奈子が挙げている「文章読本」の歴史のうち谷崎をはじめとした成立あけぼの期はこの論文が概観している。谷崎潤一郎版『文章読本』を中心にして述べられた作品周辺史でそれそのものの「成立」に焦点があてられている点で斉藤美奈子とは大きく異なるのだけども、文章読本というものそのものを狙った点は面白い。

*1:文章読本―文豪に学ぶテクニック講座』朝日新聞社ISBN:40225746742000/01 文庫版:中公文庫ISBN:4122042763